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​カイツブリの水中首振り
街中を歩いていると、ひょこひょこと頭を前後に揺らしながら歩くハトが目に入ります。ハトやカラス、ニワトリなど、気をつけて見てみると、身近で観察できる多くの鳥が、頭を前後に揺らしながら歩いています。みなさんも一度は「鳥はなぜ頭をふるのだろう?」と疑問に思ったことがあるかもしれません。
実はこの「首振り行動」、ただ単に頭を前後に振っているわけではありません。鳥の歩行をビデオで撮影し、スローでじっくり観察してみると、首振り行動とは、「頭のつきだし」と「頭の静止」の繰り返しからなる運動だということがわかります。
鳥は、小さな頭に大きな目をもつため、目だけを動かす「眼球運動」が苦手だと言われています。そのため、私たち人間のように、動く物体を目だけで追いかけることができないのです。そこで、歩きながらタイミングよく首をつきだし、首を曲げながら頭と目を空中に静止することで、目を動かさずに安定した視覚情報を得ていると考えられています。つまり、鳥たちは、まわりの景色を見るために、一生懸命首を振っているのです。
 
首振り運動は、歩くときだけ行うのでしょうか?
これまでの研究では、歩行時・飛翔時・着陸時・水面遊泳時など、様々な運動下で首振り行動が確認されてきました。しかし、水中での首振り行動は、観察が難しいため、報告例がほとんどありません。そこで私は、井の頭自然文化園と滋賀県立琵琶湖博物館で飼育されている潜水性の小型鳥類「カイツブリ」の潜水行動をじっくり観察し、潜水時の首の動きを記録しました(図1)。
潜水の様子をビデオで撮影し、スローモーションで動きの解析を行ったところ、「カイツブリは潜水中に首振り運動を行うこと」「首振りによって頭を静止していること」が確認されました(図2)。また、周囲に餌となる獲物がいるときには頻繁に首振り運動を行うことも明らかになりました。
鳥が潜水時に餌を認識する際、視覚、嗅覚、触覚のどれを利用しているのかは、未だによくわかっていません。本研究は、初めて潜水時の首振り運動の詳細を明らかにしました。これにより、カイツブリが潜水時に視覚情報を利用して獲物を捕まえている可能性が強く示されました。
しかしながら、ペンギンやウミガラスなど、潜水していても首を振らない種もたくさんいます。こうした種がどうやって獲物や周囲の景色を認識しているかは、さらなる研究が必要です。「鳥がどのような条件下で首を振っているか」を調べることで、その鳥がいつ・何を見ているかを理解することができるかもしれません。このような視点で身近な鳥を観察してみると、これまでとは違った新たな楽しみ方が増えるのではないでしょうか。
琵琶湖博物館
​図1
首振り
​図2
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