top of page
​キリンの第8の「首の骨」
では、この特殊な骨は、どのような機能をもっているのでしょうか?
それを明らかにするため、全国各地の動物園からキリンとオカピの遺体を引き取り、筋肉や骨格の構造を記録し、種間で比較を行いました。その結果、キリンでは、第一胸椎周囲において、肋骨の構造や筋肉の付着位置が変化し、第一胸椎を動かすメカニズムが獲得されていることが明らかになりました。さらに、キリンの遺体を医療用CTスキャンで撮影し、首の運動時に各脊椎骨がどのように動いているかを調べたところ、キリンの第一胸椎は、ほかの胸椎にくらべて高い可動性を示すことが明らかになりました(図1)。
これまでの研究では、どの哺乳類でも、頸椎のみが首の運動に関与すると考えられてきました。一般的に、胸椎は肋骨によって可動が制限されているため、首が運動する際も互いに固定されて動きません。しかし、キリンの第一胸椎は、胸椎でありながら高い可動性をもち、8番目の「首の骨」として首の運動に寄与していることが明らかになりました。「首の骨」の増加により、首の可動範囲は拡大されます。キリンが高いところの葉を食べ、低いところの水を飲めるのは、この8番目の「首の骨」の働きによるものである推察されました(図2)。本研究により、キリンは、「頸椎数は7個」という哺乳類の基本構造を保持しながら、自らの独特な生態に有利な構造を獲得していることが明らかになりました。
キリンの水飲み
哺乳類では、首の中にある脊椎骨である「頸椎」の数は、基本的に一定です。首が長いキリンでも、頸椎の数は、私たち人間と同じく7個です。
ところが、今から100年ほど前、イギリスの研究者レイ・ランケスターは、キリンの第七頸椎が少し変わった形をしていて、ほかの反芻獣の第七頸椎とは全く異なる形をもつことを発見しました。さらにその後の研究により、キリンでは、第一胸椎も特殊な形をもつことが発見されました。第一胸椎は、7個の頸椎に続く8番目の脊椎骨であり、一般的には胴体の一部を構成する骨です。胸椎は、左右に肋骨をもつという点で頸椎とは明確に区別されます。そして、頸椎と胸椎は、通常、脊椎骨の形も全く異なる特徴を示します。ところが、キリンの第一胸椎は、左右に肋骨が関節しているにも関わらず、脊椎骨の形は、ほかの反芻獣の第七頸椎によく似た特徴を多数もっていたのです。
 
キリンの第8の「首の骨」
​図1
​図2
bottom of page